エジプトの国民的麻薬「ハシシ」とは
愛煙家多数。革命の火種にも カイロ流交渉術⑤
案外治安のいいカイロ
たとえば、カイロでの平均的な年間殺人件数は43件で、世界でもっとも安全な大都市といわれる東京の55件より少ないのです。世界の主要都市における人口10万人当たりの殺人死亡率も、東京に次いで最も少ないほどです(『UNODC(国連薬物・犯罪事務所)調査2000-2010』)。
日本人留学生が多く、治安がよいといわれているカナダのトロントでさえ、殺人死亡率はカイロの2倍。ロンドンで3倍、ソウルでは5倍です。近年治安がよくなったといわれるニューヨークでは10倍以上です。
つまり、東京並に安全な海外留学を望むならば、最もふさわしいのがカイロなのです。治安がよくて、しかも山積みする新興国の社会問題を現場で学べる。この2つの条件を満たす都市はカイロしかありません。
そのカイロの数ある社会問題の中でも、最たるものに住宅問題があります。すでに紹介しましたが、カイロの住宅の63%は違法建築です。その多くはいわゆるスラム街にあります。
スラムとは政府の許可なく勝手に占拠した居住地のことで、アラビア語では「アシュワイヤート」(無秩序な存在)と呼ばれています。
こうした地区はカイロに全部で14ほどあり、占拠する人口は1000万人超。人口の半数近くに及びます。カイロはただの大都市ではなく、世界を代表する巨大な「無法地帯」だったのです。
違法占拠ですから、そこでは当然、行政サービスは受けられません。水道も下水道も電気も公道も住民がみずから開発しています。警察はいませんが、自衛団はいます。高級マンションはありませんが、高層アパートならあります。規制は存在しませんから、合法地帯より広くて快適なアパートが安く借りられます。
(『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』より構成)